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2011年9月27日火曜日

回想のギリシア旅行その6(オリンピア、アルカディア)

2010年12月30日 オリンピア→アルカディア高原→夕刻スパルタ着


 オリンピア遺跡見学ののち、オリンピア考古学博物館へ。

門をくぐって競技場へ
競技場入口の門
(ローマ時代のもの)
 近代オリンピックを創始したクーベルタン男爵がそのひな型として仰いだ古代オリンピア競技祭は、大神ゼウスに捧げる宗教祭儀でした。というより、古代の運動競技会は基本的に宗教祭儀でした。ギリシア人の宗教的想像力のなかで視覚は重要です。大英博物館にあるパルテノン神殿の神々の像は、本来見上げる位置にあったので、おそらく参拝する人間より神々に見てもらうためのものだったと思われます。運動競技会も「躍動する美しい肉体を神々もご覧になって楽しまれる」という「神々の視線」を意識したものでした。競技祭はすでに前8世紀から有名で、4年ごとにギリシア各地から名だたる運動選手が集まり技を競いました。
競技場全景


ゼウス神殿
ラピタイ人とケンタウロスの乱闘
中央のアポロン
 前5世紀に建てられたゼウス神殿は力強いドーリス式の典型。6世紀の大地震で倒壊したままの姿ですが倒れた石柱が迫力を感じさせます。神殿内陣にはペイディアス作の巨大な座像があり、その台座にはオリンポスの十二神の像が並んでいました。これらはすべて失われてしまいましたが、神殿東西の破風を飾っていた彫刻と、メトープのヘラクレス十二の難行を描いた浮彫彫刻はオリンピア考古学博物館に保存されています。ゼウス神殿の西破風の主題は「ラピタイ人とケンタウロスの乱闘」。ラピタイ人の王の婚礼に招かれた半人半獣のケンタウロスたちが酔ったあげくに乱暴狼藉におよび、それに対抗する人間たちとの乱闘シーンが描かれています。ケンタウロスと人間の激しい動き、両端に恐怖でうずくまる侍女たち。その中央に、静かな表情と体勢で屹立しているのが神アポロン。動と静のコントラストと調和がみごとな彫刻です。

ヘラ神殿
 ゼウス神殿の隣にヘラ神殿があります。ゼウス神殿より古く、もともとは夫ゼウスとの合同の神殿だったようです。おもしろいのは柱のデザインが統一されていないこと。元来木造だった柱を、古くなるたびに石の柱に取り替えていったからこうなりました。このヘラ神殿の前には犠牲の式が行われた祭壇跡が残っています。ギリシア風の衣装を着た女性たちによるオリンピックの聖火の採火式はここで行われます。その映像をニュースなどでご覧になった方も多いと思いますが、聖火リレーは古代ギリシアの競技会にはありませんでした。


ヘルメス像
 オリンピア考古学博物館は見どころたくさんあり。
 前4世紀の彫刻家プラクシテレスの「ヘルメス像」。ローマ時代の模刻かとも言われていますが、ギリシアの身体美の理想を具現した作品のひとつであることはまちがいないでしょう。わたしは脚が少しだけ長すぎると思いますが。
 (↓) 美少年ガニュメデをさらうゼウス。もちろんホモセクシュアルです(妻ヘラもいるんですが)。のんきな雰囲気が好きです。

ニケ像
ガニュメデを
さらうゼウス
















(→) 勝利の女神「ニケ」。スポーツ用品メーカー「ナイキ」がニケの英語読みで、ナイキのマークがニケの翼をデザインしたものであることはご存じかと思います。

奥がミルティアデスの兜
手前はペルシア軍から奪った兜
楯の飾りの怪物ゴルゴンの顔
 前490年のマラトンの戦いでアテネ・プラタイア連合軍を率いてペルシア軍に勝利を収めた将軍ミルティアデスは、戦闘で用いた自分の兜と戦利品のペルシア軍の兜をゼウス神殿に奉納しました。


 オリンピアを後にしてアルカディアを通り、ペロポネソス半島の北を横断、ナウプリオンに向かいます。

 アルカディアは、葦笛を吹く羊飼いたちの世界、「牧歌」の地として有名です。17世紀フランスの画家ニコラ・プッサンの絵に描かれているのでも有名な「われアルカディアにもあり Et in Arcadia ego」ということばは「わたしはかつてアルカディアのような桃源郷にいたこともあるのだ」という意味に理解されることもありますが、「われ」は「死」を指していて「アルカディアのような美しい場所にも死はあるのだ」というのが本来の意味でしょう。
 実はアルカディアが牧歌と結びつけられたのは後代のローマの詩人ウェルギリウスからなのですが、古代ギリシアでもアルカディアは牧神パンと結びつきが強い神さびた土地でした。バスはアルカディアの山のカーブを進んでいきます。ギリシアらしい美しいが冷酷な自然。でも「Et in Arcadia ego」を念頭に置いているからか、アルカディアはことに「死」を背景にした美しさをたたえているように思えてなりませんでした。


ハーブティーを飲んだ
茶店入り口
 途中、アルカディアの谷間の村でトイレ休憩をかねて趣ある茶店でハーブティーを。再びバスに乗ったときには宵闇で、村のあかりが谷間に揺れながら遠ざかっていきました。


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