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2011年10月17日月曜日

回想のギリシア旅行その8(エピダウロス、ミュケナイ)

2011年1月2日 エピダウロス→ミュケナイ→ナウプリオン泊

医神アスクレピオス像。蛇が巻きつく杖は
世界保健機構(WHO)のマークでもあり、
ヨーロッパの救急車のマークでもある。
 エピダウロス観光の目玉は、ほぼ完全な状態で保存されている古典期の劇場ですが、古代のエピダウロスは、なによりも医術の神アスクレピオスの神殿医療が行われる聖域(アスクレピエイオン)として知られていました。アスクレピオスの治療がさかんになるのは紀元前4世紀。症例にもとづいて疾病の本質を「科学的に」探ろうとしたヒポクラテス医師団は、前5世紀後半から前4世紀にかけて活躍したと言われています。時代を見ればわかるように、アスクレピエイオンのような「迷信的な」医療から、ヒポクラテスの「科学的な」医療に「進化」したのではありません。古代ギリシアでは、科学的医療と神殿医療が併存していました。

 まずは目玉の劇場へ。やはりいいです、ここ。
 円形舞台(オルケストラ)の床にピンを落とす音が最上段の観客席まで聞こえるとまで言われる(ためしたことはありません)音響設計のすばらしさ。わたしはギリシア悲劇の一節を日本語とギリシア語で朗読、ガイドのアンナは居あわせたギリシア人観光客と一緒にギリシア国家を歌いました。ちゃんと上段まで聞こえたそうです。

聖域のプロピュライア(表玄関)。
奥の中心部に向かって聖道が続く。
 エピダウロス考古学博物館を見学したあと、聖域に入ります。劇場は、医神アスクレピオスが誕生したと言われるキュノルティオン山の斜面にありますが、神殿医療を受ける参拝者たちは反対側の谷の方から入ってきました。その入口がプロピュライア。建造物は失われています。そこから「聖なる道」が聖域中心部に通じています。



アスクレピオス神殿(左)と
トロス(右奥)
 その中心はアスクレピオス神殿と、夢見の治療がおこなわれたアバトン(馬場恵二氏は「お籠もり堂」と訳しています)。治療を受ける人々がこのアバトンに籠もって眠りにつくと、夢の中に医神アスクレピオスがあらわれる。アスクレピオスではなく、アスクレピオスにかかわりが深い聖なる蛇や犬があらわれることもあります。あらわれたアスクレピオスや聖獣が、患部に触れたり、舐めたり、ときには手術をしたりする。目覚めると病や障害が直っている。
アバトンの上部構造


アバトンの下部。ここに
お籠もりしたらしい。
 信じる信じないはともかく、そうやって治癒した人々がアスクレピオスの神に感謝して奉納した多くの碑文や奉納物が各地のアスクレピエイオンから出土しています。







トロスの全景
トロスの復元図
 アスクレピオス神殿の周辺には、迷路のような地下構造を持っていた円堂(トロス)やアルテミス神殿、アバトンに付随するアスクレピオスの浴場(お籠もりする人たちが身を清めたらしい)などの遺構があります。
トロス柱頭。アンナのライターの火が
石を透かして見える。
   トロスの柱頭のひとつが考古学博物館に展示されています。コリントス式柱頭を代表する見事なもので、アカンサスの葉をかたどった細工は、ライターの火が透けて見えるほど細やかなものでした。

 遺跡見学のあとで、アンナが正月のケーキとラキ(ギリシア版アクアビットみたいな強いスピリット)をみんなにふるまってくれました。
正月のケーキを切り分ける
アンナ。奥の瓶はラキ。
 ケーキにまず十字に切れ目を入れる(イエスの十字架を模しています)。それから切り分けていくのですが、最初の一切れはイエス、二切れ目は聖母マリア、三切れ目は貧しい人々の取り分になります。ケーキの中には幸運のしるしの金貨が埋めてあります。金貨はイエスの割り当てに入っていました。
 ケーキとともにラキで乾杯して新年を祝いました。運転手のソティリスも乾杯してお代わりまでしていた(ような気がする、と一応書いておきます)。その後の運転にみじんの乱れもなかったので問題ないのでしょう。
ケーキから出てきた金貨
ミュケナイの獅子門
ミュケナイ王家の「墓」と言われる部分
 ミュケナイ時代の遺跡、ミュケナイは、丘を利用して作られた巨大な王宮・城塞です。
 獅子門をくぐって王宮内へ。
ミュケナイ井戸入口

井戸に降りる三千年以上前の石段
 わたしたちは観光客がほとんど行かないいちばん奥の井戸に入りました。数十メートルの深さまで階段が続いている。もちろん途中から真っ暗闇です。この井戸から城壁の外への抜け道が通じていました。


ミュケナイ近くにある
蜂の巣型墳墓の入口
散歩道で見た夕暮れのアルゴス湾
 夕刻、ふたたびナウプリオンのホテルに戻り岬を散歩。
 港には小さな要塞跡があるのですが、わたしたちが埠頭に着いたとき、要塞跡に向かう最後の船が接岸してきました。船頭が「今日最後の便だ。乗っていかないか」と誘います。わたしたちは文字どおり「渡りに船」と飛び乗りました。夕闇迫る要塞の上を鳥が群がり飛ぶ様子は「強者どもが夢のあと」の雰囲気がありました。
ナウプリオン港に浮かぶ城塞跡 Photo by Irie

ポテトとサラダで
ギロスを待つ
ギロスが来た! ソースのザジキが
ほどよい加減でおいしかった

 散歩のあとは学生たちの要望もあって、巨大な串焼き肉をナイフで削ってピタパンにはさんだファーストフード「ギロス」を食べに夜のナウプリオンの町にでかけます。ファーストフードとはいえ、ポテトやサラダもとったので軽めの夕食くらいにはなりました。

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